はじめに
VoIPネットワークでは伝送遅延時間が大きくなるため、エコーによる
音声品質の劣化が発生します。
VoIP端末およびゲートウェイに搭載されているエコーキャンセラーは
エコーを抑制して音声品質を向上させますが、FAX通信に対しては
悪い影響を与える場合があります。
本ドキュメントでは、FAX通信(FoIP)とエコーキャンセラーの関係性
について解説します。
1.FAX端末の種類について
アナログ回線に接続される FAX 端末としては、主に家庭用として
使用される 標準 G3 FAX 機と、主にビジネス用として使用される
Super G3 機があります。Super G3 FAX 機では、高速のモデム(V.34)、
高能率の符号化方式(JBIG)等の採用より FAX送信時間が大幅に
短縮されています。
FAX 端末種別 |
使用モデム |
最高通信速度 |
半二重/全二重 |
G3 FAX 機 |
V.17/V.29 等 |
14.4Kbps |
半二重 |
Super G3 FAX機 |
V.34 |
33.6Kbps |
全二重 |
2.半二重と全二重の動作の違い
みなし音声または Modem / FAX パススルー方式の場合、変調された
FAX モデム信号がそのまま RTP パケットで伝送されます。
Wirehsark等のツールでパケットキャプチャを取得し、ペイロード部分を
抽出すると FAX 通信のシーケンスが確認できます。
(モデム信号をデコードするには専用のアナライザー機器が必要です。)
下図は、標準 G3 FAXの通信シーケンスをWAVファイルにして
WAVファイルエディタ(Audacity)で表示したものです。
送信と受信のタイミングは重複せず、通信は半二重で行われています。

FAX Analyzer (Quality Logic: Data Probe T.30 Analyzer) でデコードすると
以下のように見えます。

下図はSuper G3 FAX の通信シーケンスをWAVファイルにして
WAVファイルエディタで表示したものです。
送信と受信のタイミングが重複しており、通信は全二重で行われています。

FAX Analyzer (Quality Logic: Data Probe T.30 Analyzer) でデコードすると
以下のように見えます。

3.FAX 通信へのエコーキャンセラーの影響について
Super G3 FAX 通信では、全二重の V.34 モデムが使用されます。
VoIP 端末(Voice GW 等)でエコーキャンセラー(NLP: Non-Linear Processor)が
有効になっている場合、FAX機器からのモデム信号をエコーと判断して
抑制してしまい、FAX 通信が正常に行えなくなる可能性があります。

4.エコーキャンセラーの影響への対策
Cisco IOS Voice GW では、Modemパススルー方式を採用することによる
エコーキャンセラーの問題に対応できます。
Super G3 FAX通信が開始されると、Voice GWは音声コーデックをG.711に
変更すると同時に、VAD、エコーキャンセラー等の機能も無効化します。
エコーのノイズによるS/N比の劣化が少なければ、Super G3 FAX通信が
正常に行えるようになります。

みなし音声方式の場合でも、エコーキャンセラーを無効化することは
可能です。(対象のvoice-port に “no echo-cancel enable”コマンドを設定)
但し、この方法の場合、FAXコールだけでなく、他の音声コールについても
エコーキャンセラーが無効化されるため、音声コールの通話品質が劣化
してしまいます。
まとめ
国内の多くの企業では、ビジネス用の Super G3 FAX 機が使用されています。
Super G3 FAX機では、全二重のV.34モデムが使用されているため、
FoIP 環境で使用する際は注意が必要です。
昨今、多くの企業でVoIP化が進んでおり、通話路の何処かで
エコーキャンセラーが有効になっていて、FAX通信に影響を与える
可能性が考えられます。
Super G3 FAX 機でFAX通信に問題が発生した場合、FAX機側の設定で
Super G3(V.34モデム)機能を無効にしたほうが、FAX通信が安定すると
考えられます。
参考文献:
ITU-T:
G.168 (Digital network echo cancellers)
T.30 (T.30 : Procedures for document facsimile transmission in the general switched telephone network)
情報通信ネットワーク産業協会(CIAJ) :
IP-PBX に VoIP-TA を経由してファクシミリ端末を収容する際の VoIP-TA /ファクシミリ端末 ガイドライン