はじめに
Cisco IP テレフォニー ソリューションにおいて外線接続用に
IP 電話網を利用するケースが増えてきました。
接続形態としては大別して、SIPプロトコルによる VoIP 接続、
従来の電話インタフェース (PRI、BRI、E&M、FXS等) による
接続の2つがあります。
このドキュメントでは、PRI、BRI等の電話インタフェースで、
IP 電話網に接続する際の注意点について解説します。
1.接続インタフェースについて
KDDI光ダイレクト、NTTひかり電話オフィスA等の IP 電話網では、
PRI、BRI等のデジタル電話インタフェースでの接続サービスが
提供されています。
PRI、BRIのインタフェース仕様が、NTTのINSネット64/1500と
同等であれば、Cisco Voice GWはスイッチタイプの設定により
接続することが可能です。
Voice GWは、IP 電話網事業者が設置するVoIPアダプタに
接続されます。

2.クロックの同期について
PRI、BRI等のデジタル電話インタフェースでは、通話品質を維持
するために、クロック同期に関する設計上の配慮が必要です。
NTTが提供する、INSネット64/1500サービスでは、DSU装置を
経由してVoice GWに接続されます。
DSU装置は、NTTのISDN網と直接接続されており、全てのPRI、
BRI回線は同一のクロックに同期しています。

Voice GW (ISR G2) の設定例: 網側クロックに従属同期する場合
network-clock-participate wic 0
network-clock-select 1 T1 0/0/0
network-clock-select 2 T1 0/0/1
!
controller T1 0/0/0
clock source line
pri-group timeslots 1-24
!
controller T1 0/0/1
clock source line
pri-group timeslots 1-24
備考:clock source lineコマンドはデフォルト設定のため表示されません
|
3.クロック同期が問題になる構成
一方、IP電話網との接続で使用されるVoIPアダプタ装置は、
VoIPでIP電話網と接続されており、PRI、BRI回線で提供される
クロックは、VoIPアダプタ装置の内部クロックになります。
VoIPアダプタ装置が1台構成の場合、Voice GWは
VoIPアダプタ装置に従属同期させることで問題なく動作します。
しかし、VoIPアダプタ装置が複数台設置される場合、それぞれの
装置が内部クロックで動作するため、Voice GWは複数の異なる
クロックを受信することになります。
Voice GWのPRI、BRIインタフェースは、通常、同一のクロックで
動作しているため、PRI、BRI回線で同期ずれが発生します。
同期ずれの発生は、PRI回線の場合は “show controllers t1”コマンドで
SLIPエラーとして、BRI回線の場合は “show interface bri”コマンドで
CRCエラーとして表示されます。
(SLIPエラー発生時の表示例)
# show controllers t1
:
T1 0/0/1 is up.
Applique type is Channelized T1
Cablelength is long 0db
No alarms detected.
alarm-trigger is not set
Soaking time: 3, Clearance time: 10
AIS State:Clear LOS State:Clear LOF State:Clear
Version info FPGA Rev: 08121917, FPGA Type: PRK4
Framing is ESF, Line Code is B8ZS, Clock Source is Line.
CRC Threshold is 320. Reported from firmware is 320.
Data in current interval (847 seconds elapsed):
0 Line Code Violations, 0 Path Code Violations
168 Slip Secs, 0 Fr Loss Secs, 0 Line Err Secs, 0 Degraded Mins
168 Errored Secs, 0 Bursty Err Secs, 0 Severely Err Secs, 0 Unavail Secs
Total Data (last 1 15 minute intervals):
0 Line Code Violations, 0 Path Code Violations,
182 Slip Secs, 0 Fr Loss Secs, 0 Line Err Secs, 0 Degraded Mins,
182 Errored Secs, 0 Bursty Err Secs, 0 Severely Err Secs, 0 Unavail Secs
#
|
クロック同期ずれが発生すると、音声品質の劣化、FAX通信の失敗等の
問題が発生します。
4.クロック同期問題への対処方法
VoIPアダプタ間でのクロックを同期させる方法がないか、
IP電話の事業者に確認します。
IP電話網と PRI 回線で接続する場合は、下図のように
VoiceGW の内部クロックを自走クロックとして、
VoIPアダプタを従属同期させることで、同期ずれの
問題に対処できる場合があります。

Voice GW (ISR G2) の設定例: 自走クロックにする場合
network-clock-participate wic 0
!
controller T1 0/0/0
clock source internal
pri-group timeslots 1-24
!
controller T1 0/0/1
clock source internal
pri-group timeslots 1-24
|
但し、ISDN網側として動作するVoIPアダプタが、ISDN端末側
として動作するVoiceGWに従属同期できるかどうかは、
IP電話網の機器に依存します。
(KDDI光ダイレクトのVoIPアダプタを、VoiceGWに従属同期
する構成で接続した事例はあります。)
BRIインタフェースの場合は、ISDN端末側からISDN網側へ
クロックを提供する動作がサポートされていません。
VoIPアダプタ間でのクロック同期ができない場合、
対応は難しくなります。
まとめ
IP電話網と VoiceGW を PRI、BRI 等の電話インタフェースで
接続する場合、クロック同期設計に注意が必要です。
事前に、IP電話網の事業者と相談し、対応策を検討して
システムを構築していただく必要があります。