従来型 PBX 装置から IP Telephony システムに移行する過程において、
システム間の相互接続が行われる場合があります。
本ドキュメントでは、相互接続のプロトコルに T1 CAS(Channel Associated Signaling)
またはアナログE&Mのインタフェースを使用した場合の注意事項(機能制限)
について解説します。
ISDN-H.323-CAS インターワーキングで発生する問題
下図の構成では、IP Telephonyシステム が H.323 Voice GW 経由で NTT(ISDN PRI/BRI)と
従来型PBX装置(T1 CAS、E&M)に接続されています。
外線(NTT)から、従来型PBX装置の電話機へのコールは、IP Telephonyシステムを経由して
ルーティングされるため、ISDN-H.323-CASプロトコルのインターワーキングが発生します。
その際、着信側の電話機がアイドル状態の場合は問題ありませんが、通話中の場合に
不都合な事象が発生します。着信側の電話機が通話中の場合、発信側の電話機には話中音
(Busy Tone)が聞こえるべきですが、プロトコル上の制約により、呼出音(Ring Back Tone)
が聞こえてしまいます。そのため、発信側の電話機では着信側が通話中であるにもかかわらず、
応答するのを待ち続けてしまいます。

問題が発生する原因
この問題は、T1 CAS/E&Mプロトコルの動作仕様とNTT ISDN回線(INSネット64/1500)の
制約事項が関連して発生します。
T1 CAS/E&M プロトコルの場合、シグナリング上はオンフックとオフフックの状態しかありません。
呼出中、通話中等の情報は、インバンド情報(トーン)として着信側から発信側へ
伝える必要があります。
NTT ISDN回線の動作仕様については、NTT が公開している技術参考資料に記載されています。
下表は、INSネットサービスの技術参考資料からの引用です。
ISDNプロトコル上、インバンド情報を使用する際には、経過識別子(PI / Progress Indicator) の
情報要素を使用しますが、NTT ISDN網では、ユーザから網方向への呼出(Alerting)メッセージでの
経過識別子はサポートされていません。そのため、コール接続前に、ユーザから網方向へ
インバンド情報を提供することができません。

下図は、ISDN-H.323-CAS インターワーキングにおける、全体のコールフローになります。
着信側のPBX装置は、着信する電話機がアイドル状態の場合は 呼出音(RBT)を、通話中の
場合は 話中音(BT)を生成します。
BT/RBT 等のトーンは、インバンド情報としてVoIP(H.323)網に伝送されますが、
NTT ISDN側の制約事項により、発信側の電話機までは伝送することができません。
そのため、着信側の電話機の状態にかかわらず、RBTが聞こえてしまいます。

対処方法
本件の問題は、ISDN-H.323-CASインターワーキングにおけるプロトコル上の制約事項になります。
問題を回避したい場合、システム構成の変更を検討する必要があります。
例えば、従来型PBX装置との接続プロトコルを T1 CAS/E&M から ISDN に変更することにより、
問題を回避できる可能性があります。
着信側の PBX 装置が、電話機がアイドルの時には Alerting メッセージを、
通話中の時には Disconnectメッセージを返送することができれば、
発信側の NTT ISDN 網にも、そのメッセージを伝えることができるので
問題を回避することができます。
また、従来型PBX装置との接続が過渡的な構成である場合、出来るだけ早く、
電話システムを IP Telephony システムに統合してしまうことが解決策になります。